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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)8673号 判決

原告 株式会社アンローブ

右代表者代表取締役 西田武男

原告 西田武男

右両名訴訟代理人弁護士 雨宮正彦

右輔佐人弁理士 滝野秀雄

被告 株式会社 アン

右代表者代表取締役 稲田稔

右訴訟代理人弁護士 柳原武男

右輔佐人弁理士 斎藤侑

主文

(一)  被告は、原告西田武男との間において、別紙目録(1)記載の標章を婦人服のタッグ(下げ札)、織ネーム、看板(店頭表示板)及び包装袋に、同目録(2)記載の標章を婦人服のタッグ及び看板に、同目録(3)記載の標章を婦人服のタッグ、織ネーム及び包装袋に、同目録(4)記載の標章を婦人服のタッグに、同目録(5)記載の標章を婦人服の織ネームにそれぞれ付し、又は右標章を付したタッグ若しくは織ネームを付した婦人服を譲渡し、引渡し、譲渡若しくは引渡のために展示してはならない。

(二)  被告は、原告西田武男に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和四七年一〇月二六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  原告西田武男のその余の請求及び原告株式会社アンローブの請求を棄却する。

(四)  訴訟費用は、原告西田武男と被告との間においては、原告らに生じた費用の四分の三を被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告株式会社アンローブと被告との間においては全部原告株式会社アンローブの負担とする。

(五)  この判決は、右(一)及び(二)の項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

(一)  (原告ら両名の請求)

被告は、別紙目録(1)ないし(5)記載の標章を婦人服のタッグ(下げ札)、織ネーム、看板(店頭表示板)、包装紙若しくは包装袋に付し、又は右標章を付したタッグ若しくは織ネームを付した婦人服を譲渡し、引渡し、譲渡若しくは引渡のために展示してはならない。

(二)  (原告株式会社アンローブの請求)

被告は、東京法務局渋谷出張所昭和四五年八月一四日受付をもってした被告の設立登記中、商号「株式会社アン」の登記の抹消登記手続をせよ。

(三)  (原告西田武男の請求)

主文(二)の項同旨。

(四)  訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決並びに右(一)及び(三)の項につき仮執行の宣言を求める。

二  被告

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は、原告らの負担とする。

との判決を求める。

第二請求原因

一  原告西田武男の商標権に基づく被告標章の使用の差止請求

(一)  原告西田武男(以下単に「原告西田」という。)は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その商標を「本件登録商標」という。)の商標権者である。

出願日 昭和三七年一二月一四日

公告日 昭和三九年三月五日

登録日 昭和三九年七月二四日

登録番号 第六四八四七七号

指定商品 第一七類(被服、布製身回品、寝具類)

登録商標 別添商標公報記載のとおり

(二)  被告は、その本店を肩書地に置くと共に高島屋を始め全国各地の百貨店に店舗を設け、婦人服の販売を業としているものであるところ、別紙目録(1)ないし(5)記載の標章(以下「被告標章」という。個々の標章を指すときには同目録の番号を付することとする。)を被告の商品である婦人服について使用している。すなわち、被告は、被告標章(1)をその商品である婦人服のタッグ(下げ札)、織ネーム、看板(店頭表示板)包装紙及び包装袋に付し、右タッグ若しくは織ネームを付した婦人服を販売し、引渡し、又は販売若しくは引渡のために展示しており、被告標章(2)を看板(店頭表示板)及び婦人服タッグに、被告標章(3)ないし(5)を婦人服のタッグ、織ネーム又は包装袋にそれぞれ付している。

(三)  本件登録商標には「あん」の称呼及び観念が生じるものであるところ、被告標章(1)は、被告の商号である「株式会社アン」との関連において英字「an」を図案化したものにほかならず、称呼上「あん」と発音されるものであり、取引の実際においても需要者間において「あん」と呼ばれているものであって、本件登録商標と称呼及び観念において全く同一である。また、被告標章(1)が使用されている商品の婦人服が、本件商標権の指定商品である「被服」に含まれることはいうまでもない。従って、被告標章(1)は、本件登録商標の範囲に属する。また、被告標章(2)ないし(5)が、本件登録商標と称呼及び観念において類似し、且つ同標章が使用されている婦人服が本件商標権の指定商品である「被服」に含まれ、同標章が本件登録商標の範囲に属することは明らかである。

(四)  よって、原告西田は、被告に対し、本件商標権に基づき、被告が被告標章(1)ないし(5)を婦人服のタッグ(下げ札)、織ネーム、看板(店頭表示板)、包装紙若しくは包装袋に付し、又は右標章を付したタッグ若しくは織ネームを付した婦人服を譲渡し、引渡し、譲渡若しくは引渡のために展示する各行為の差止めを求める。

二  原告株式会社アンロープの不正競争防止法第一条第一項第一号に基づく被告標章の使用の差止請求

(一)  原告株式会社アンローブ(以下単に「原告会社」という。)は、その肩書地に本店を有し、婦人既製服及び付属品の製造販売の事業を営むことを目的として昭和三九年一〇月二六日設立された資本金一、五〇〇万円の会社(昭和四八年四月一六日有限会社から株式会社に組織変更)であるところ、「an」又は「アン」という表示が、原告会社の商品を表示するものとして、東京都内はもとより日本全国において同業者及び需要者間に広く認識されるに至っている。

原告会社は、昭和三九年一〇月二六日設立以来、別紙第一ないし第一一に示す熊様で「an」の表示を婦人服のタッグ(下げ札)、織ネーム、看板(店頭表示板)等に使用してきた。その結果、「an」又は「アン」自体が原告会社の商品を表示するものとして広く認識されるに至ったものである。すなわち、(1)別紙第一ないし第四の表示(第一、第二の表示は昭和三九年一〇月、第三の表示は昭和四二年八月、第四の表示は昭和四三年八月それぞれ使用を開始)は、原告会社の商品自体に縫着されるいわゆる織ネームであるが、別紙第一、第二の表示では、山形と直線との間に「an」が挾まれて表示されており(もっとも、第一の表示では「ROBE」の文字が直線の下に、第二の表示ではこれが直線の上にある。)、別紙第三の表示では、山形及び直線が付加されず、単に「an ROBE」とのみ表示されており、また別紙第四の表示では、「ROBE」も付加されず、単に「an」とのみ表示されている。(2)別紙第五ないし第八の表示(第五は昭和三九年一〇月、第六、第七は昭和四四年八月、第八は昭和四三年八月それぞれ使用を開始)は、原告会社の商品に付されるタッグ(下げ札)であるが、別紙第五ないし第七の表示では、山形と直線との間に「an」が挾まれて表示されており、別紙第八の表示では、単に「an」とのみ表示されている。(3)別紙第九ないし第一一の表示(第九は昭和四三年八月、第一〇及び第一一は昭和四四年八月それぞれ使用を開始)は、原告会社が百貨店に開設している商品販売店舗の看板(店頭表示板)であるが、これらはいずれも「an」又は「an アン」とのみ表示されており、結合模様としてこれに付加されているものは何もない。右のとおり、原告会社における「an」又は「アン」の表示熊様は様々であり、あるいは右表示単独で使用し、あるいはこれに他の部分を付加して使用する等若干のバリエーションがあるが、いずれも「an」又は「アン」という表示が共通して使用されており、他の付加部分いかんにかかわらず、原告会社の商品は同業者及び需要者間において、一貫して「あん」と称されてきたものである。

「an」又は「アン」という表示は、原告西田のデザインに係るプレタポルテを示すものであり、従って原告西田のデザインに係るプレタポルテを一手に製造販売する原告会社にとっては、右表示は、まさに自己の商品たることを示す表示にほかならない。

右表示は、原告会社の商品表示として、遅くとも被告会社設立時(昭和四五年八月一四日)以前である昭和四三年ころには当業界及び需要者間において広く認識されるに至ったものである。

(二)  被告は、前述一、(二)の項のとおり、被告標章(1)ないし(5)を使用している。

(三)  被告標章(1)は、前述のとおり、被告の商号である「株式会社アン」との関連において英字「an」を図案化したものにほかならず、称呼上「あん」と発音されるものであり、また取引の実際においても「あん」と呼ばれているものであって、原告会社の商品表示である「an」の表示と類似するものであることは明らかである。被告標章(2)ないし(5)が、原告会社の周知の商品表示である「an」又は「アン」と類似することはいうまでもない。

そして、原、被告会社共に婦人服の販売を業とするものであること、高島屋を始め全国各地の百貨店において現に売場が競合して設けられていることなどを斟酌すると、被告による被告標章(1)ないし(5)の使用は、明らかに原告会社の商品と混同を生ぜしめる行為というべきである。従ってまた、被告の右行為により、原告会社は、長年にわたって築いてきた自己の信用を毀損されるなど営業上の利益を害されるおそれがある。

(四)  よって、原告会社は、被告に対し、不正競争防止法第一条第一項第一号に基づき、前述一、(四)の項のとおり、被告の行為の差止めを求める。

三  原告会社の不正競争防止法第一条第一項第二号に基づく被告商号登記の抹消登記手続請求

(一)  原告会社は、前述のとおり昭和三九年一〇月二六日設立以来一貫して「an」又は「アン」という名称の下に、主として原告西田のデザインによる婦人服の製造販売をしてきたものであり、その業績も次第に発展して、現在では高島屋を始め全国各地の百貨店に売場を設けると共に週刊誌等の宣伝媒体を通して強力な宣伝活動を継続してきているものであって、その結果「an」又は「アン」という表示は、原告会社の営業上の施設又は活動を表示するものとして、東京都内はもとより日本全国において同業者及び需要者の間に広く認識されるに至っている。

「an」又は「アン」という表示は、原告西田の単独経営に係り、且つ、専ら原告西田のデザインに係るプレタポルテを製造販売し他の商品をほとんど取扱わない原告会社にとっては、商品表示であると共に営業表示としての機能をその設立当初から有していたものであり、現に原告会社は当業界では単に「あん」と呼ばれており、また原告会社の売場には「an」又は「アン」と表示した標識が掲げられていて、顧客の間でもこの表示で通用しているのである。なお、原告会社の商号中の「ローブ」はフランス語のrobeすなわち衣服特に婦人子供服を意味する普通名詞に過ぎない。

右「an」又は「アン」の表示は、原告会社の営業表示として、遅くとも被告会社設立時以前である昭和四三年ころには当業界及び需要者間において広く認識されるに至ったものである。

(二)  被告は、東京法務局渋谷出張所昭和四五年八月一四日受付をもって設立登記を経由し、その肩書地に本店を置くと共に高島屋を始め全国各地の百貨店に店舗を設け、「株式会社アン」の商号の下に婦人服の販売業を営んでいる会社である。

(三)  被告の商号が原告会社の営業表示である「an」又は「アン」と同一又は類似であることは明らかである。そして、原、被告会社共に婦人服の販売を業とするものであること、高島屋を始め全国各地の百貨店において現に売場が競合して設けられていることなどを斟酌すれば、被告による右商号の使用は、明らかに原告会社の営業上の施設又は活動と混同を生ぜしめる行為というべく、従ってまた原告会社は被告の右商号の使用によって、長年にわたって築いてきた自己の信用を毀損されるなど営業上の利益を害されるおそれがある。

(四)  よって、原告会社は、被告に対し、不正競争防止法第一条第一項第二号に基づき、被告会社の設立登記中、商号「株式会社アン」の登記の抹消登記手続を求める。

四  原告西田の商標権侵害に基づく損害賠償請求

(一)  被告は、前述のとおり、原告西田の本件商標権を侵害したものであるところ、少なくとも昭和四五年八月一四日から昭和四七年八月三一日までの間に、被告標章(1)ないし(5)を使用することが本件商標権を侵害するものであることを知りながら、右標章を付した商品を合計金七億五、〇〇〇万円相当販売して被告標章(1)ないし(5)を使用した。

従って、被告は、原告西田に対し、右侵害行為により同原告が被った損害を賠償すべき義務がある。

(二)  ところで、原告西田は、被告の右侵害行為により本件登録商標の使用に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の損害を受けたというべきところ、右通常受けるべき金銭の額は、商標の使用料相当額であり、被告の被告標章(1)ないし(5)の使用のような態様の場合の使用料は商品の販売価格の三パーセントを下らないから、被告の前述期間中の販売総額金七億五、〇〇〇万円に右使用料率〇・〇三を乗じた金二、二五〇万円が、被告の右侵害行為により原告西田が被った損害となる。

(三)  よって、原告西田は、被告に対し、右損害金の内金一〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四七年一〇月二六日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三被告の答弁及び主張

一(一)  請求原因一、(一)の項は認める。

(二)  同一、(二)の項のうち、被告が被告標章(1)を被告の商品である婦人服のタッグ(下げ札)、織ネームに付し、又は右タッグ若しくは織ネームを付した婦人服を販売し、販売のために展示していること、被告標章(1)を看板(店頭表示板)に表示していること(但し、後述するとおり商標としての使用ではない。以下の行為もまた同じ。)、被告標章(2)を看板(店頭表示板)及び婦人服のタッグに表示し、右タッグを付した婦人服を販売し、販売のために展示していること、被告標章(3)ないし(5)を被告の商品である婦人服のタッグ、織ネームに表示し、又は右タッグ若しくは織ネームを付した婦人服を販売し、販売のために展示していることは認めるが、その余の事実は否認する。

(三)  同一、(三)の項のうち、被告標章(1)ないし(5)が使用されている商品である婦人服が本件商標権の指定商品である「被服」に含まれることは認めるが、その余の事実は否認する。

二(一)  同二、(一)の項のうち、原告会社がその肩書地に本店を有し、婦人既製服及び付属品の製造販売の事業を営むことを目的として昭和三九年一〇月二六日設立された資本金一、五〇〇万円の会社であること、原告会社が別紙第一、第二、第五ないし第七の表示を原告会社主張のタッグ、織ネーム等に使用し、その開始時期が原告会社の主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  同二、(二)の項に対する認否は、前述一、(二)の項のとおりである。

(三)  同二、(三)の項のうち、原、被告会社が共に婦人服の販売を業とするものであること、原、被告会社の売場が高島屋日本橋店・横浜店、阪急数寄屋橋店・梅田店、西武渋谷店・池袋店で競合していることは認めるが、その余の事実は否認する。

三(一)  同三、(一)の項のうち、原告会社が原告会社主張の日時設立されたこと、原告会社が婦人服の製造販売を業とする会社であることは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  同三、(二)の項のうち、被告が東京法務局渋谷出張所昭和四五年八月一四日受付をもって設立登記を経由し、その肩書地に本店を置くと共に前述二、(三)の項の百貨店に店舗を設け、「株式会社アン」の商号の下に婦人服の販売業を営んでいることは認めるが、その余の事実は否認する。

(三)  同三、(三)の項のうち、原、被告会社が共に婦人服の販売を業とするものであること、原告会社が前述の百貨店と取引があり被告会社の取引と重複していることは認めるが、その余の事実は否認する。

四(一)  同四、(一)及び(二)の項は否認する。

五  原告西田の商標権に基づく被告標章の使用の差止請求について

(一)  本件登録商標は、その記載から明らかなとおり、特殊な山形と直線との間に挾まれた欧文字の「an」と直線の下の片仮名の「アン」との結合から成るものであって、その権利の中心は、呼び名の「あん」にではなく、むしろその独特の形態と組合わせにある。また、本件登録商標中、「an」より「アン」の方の記載が大きいことからみても、その要部が「an」にないことは明らかである。

(二)  アルファベット一文字若しくは二文字を普通に用いられる方法で表示して成る商標は、商標法第三条第一項第五号の規定により登録を許されない。従って、本件登録商標が「an」のみであったとしたら、当然右条項により登録を拒否されたであろう。本件登録商標は、山形の「図形」と欧文字の「an」と特殊な形の片仮名で表示された「アン」の三者が一体となって始めて特別顕著性を生じ、登録が許されたものというべきであるから、本件登録商標の要部は、右「図形」と「an」と「アン」の三者全体でなければならず、呼称としての「あん」にはない。

被告の調査によれば、「AN」又は「an」の文字のみから成る商標は登録されていない。本件登録商標の登録前に「ANSET」(商公昭三五―四二八六)、「アンファン」(商公昭三三―一三二九九)、「アンライド」(商公昭三一―五七六〇)等が見受けられる程度である。

(三)  原告西田は、看板(店頭表示板)に被告標章を付することの差止を求めているが、被告はこれによって店舗の所在を表示しているのみであって、商品の広告をしているわけではないから、右差止請求は理由がない。また、被告は被告標章を包装紙及び包装袋に使用していないから、被告標章を包装紙及び包装袋に付することの差止請求も理由がない。

(四)  被告標章(1)は、単なる図案であり、極めて特殊な態様で表わされている文字であるから、その文字に相当する称呼、観念を生じる余地のないものである(乙第九号証の一の二、同号証の三の三参照)。強いて欧文字として解釈すれば、「ch」か「oh」であって、「an」とは全く関係がない。

被告が、被告標章(1)を作成するに当たって、フランス国パリ市所在の婦人服生地専門店として有名なarmand hallensteinの標章を参考にしたことは事実であるが、この標章は右名称の各頭文字である「a」と「h」とを組合わせたものであるとはいえないし、また被告がこれを参考にする際右標章では「h」部分が長すぎるので、これを適当な長さに切って、しかも格好を良くしたものであり、これにより「h」から「n」に右部分を変えたのではない。被告は、そのタッグ(下げ札)において「AN」を大きく表示しているが、それは「AN」が被告商号の中心をなすからであって、そのことから、被告標章(1)を「an」の文字、従ってまた「あん」の称呼が生ずるものと読みとることは不可能であり、且つそのような観念を生ずる余地もない。

(五)  原告西田は、本件商標権に基づいて、被告標章(2)ないし(5)の使用の差止を求めているが、被告はこれら標章を商品の表示として使用しているものではなく、商品の製造者としての被告の表示の一部として通常用いられる方法に従って表示しているに過ぎないものであるから、右標章は商標権に基づく差止の対象とはならない。また、被告標章(3)ないし(5)は、いずれもそのままでは商標登録を許されない、本来権利性のない標章であり、そのような標章について特殊の字形及び図形を有する本件商標権に基づいて使用の差止を求めることは許されない。更に、被告標章(2)は、商標登録が許されるものであるかどうか疑問のあるものであるが、仮に登録が許されるとしても、その図形化の点に重点が置かれるべきであるが、称呼ないし観念(「あん」という呼び名)に重点を置くべきではない(「an」の文字のみからなるものは商標として登録されないが、称呼が同じであるからといって、「アン」の文字のみからなる登録商標を有する者が他人の「an」の標章の使用を差止めることができるというのは、「an」という文字のみからなる標章が登録されえないということと矛盾することになる。)ので、本件商標権に基づいては、被告標章(2)の使用の差止を求めることはできない。

(六)  本件登録商標と被告標章との類否の判断は、取引社会の実情を斟酌してすべきである。ファッション、プレタポルテの業界では、消費者は主として商品を見て買うのであって、標章によって買うのではない。また、業界における卸、小売の業者は、被告標章を見れば、被告の商品であると判断するし、本件登録商標を見れば、原告西田の作品であると考えるのであって、その間に誤認混同を生じる余地はない。両者は類似するとはいえない。

六  原告会社の不正競争防止法第一条第一項第一号に基づく被告標章の使用の差止請求について

(一)  原告会社は、被告会社設立当時から現在に至るまで、同業者間において会社の名称すら著名でなく、まして「an」又は「アン」の表示が原告会社の商品を表示するものとして広く認識されているという事実はない。原告西田又は原告会社がプレタポルテを大々的に展示するようになったのは最近のことであり、更に「アン」又は「an」の表示を用いるようになったのは、関西では昭和四六年七月ころからであったかも知れないが、東京では昭和四七年以降のことである。デザイナーの原告西田は、業界において有名であるが、原告会社はその蔭にあって業界ではあまり知られていないものであり、まして原告会社が昭和四三年ころから業界及び需要者間において「アン」又は「an」として広く認識されるに至ったということはあり得ない。原告会社提出の原告会社の売上実績表によっても、被告会社設立前の昭和四四年及び設立時の昭和四五年の原告会社の売上数量は、わずか四万八、七〇五着であって、当時の全国婦人服の販売数量一億三、七二七万五、〇〇〇着からみれば大海の一滴に過ぎないものであり、原告会社が全国的に有名になるはずがない。被告会社の製品は、原告会社の商品の約半分位の価格であるから、その販売数量は原告会社の八倍以上となる関係にあり、全国的にはむしろ被告会社の方が原告会社よりも有名である。

(二)  被告標章(1)について、その文字に相当する称呼及び観念が生ずる余地のないことは、前述五、(四)の項のとおりである。「あん」の称呼ないし観念が生じることを前提とする原告会社の被告標章(1)の使用の差止請求は失当である。

被告は、被告標章(2)ないし(5)を商品の表示として使用しているものではなく、商品の製造者としての被告の表示の一部として通常用いられる方法に従って表示しているに過ぎず、不正競争の目的もなく、善意に使用しているに過ぎないから、原告会社の被告標章(2)ないし(5)の使用の差止請求も失当である。

(三)  原告会社は、その商品と被告会社の商品とが混同されていると主張するが、仮にそのようなことがあるのであれば、有名百貨店が両者と取引をするはずがないのに、現に両者との取引が存在するということのみによっても、混同がないことを物語っている。被告は、全国各地の専門店に婦人既製服を販売しているが、これらの店から、原告会社の商品との混同の事実を告げられたこともない。全国的に有名なのは、被告の商品であって、原告会社のそれではない。

七  原告会社の不正競争防止法第一条第一項第二号に基づく被告商号登記の抹消登記手続請求について

(一)  原告会社は、「an」なる名称を昭和三九年一〇月二六日同社設立以来一貫して婦人服の製造販売について用いてきたし、そのように宣伝活動もしてきたというが、そのような事実はない。原告会社の名称は、被告会社設立当時はもちろん現在まで同業者間においてすら著名ではない。

(二)  婦人既製服業界において、原告会社の商号を「アン」と縮めて呼ぶ慣習はないし、原、被告会社の商号が混同しているとの事実もない。原、被告会社は、混同されることなく、別個の会社として認識されている。

(三)  被告は、その設立に当たり、紛らわしい名称がないかどうかを調査し、そのような名称がないことを確かめてから、「株式会社アン」の登記手続をしたものである。被告会社には不正競争の目的はない。

(四)  東京には洋品関係だけでも、「アン、インターナショナル」(洋品)、「アン・ドレス」(洋装店)、「アン・プルール」(洋装店)等の店があり、その他の業種で「アン」又はこれに類する名称のものは、数十に及ぶ。従って、原告会社の呼称も「アンローブ」として始めて他から区別されているものであって、「an」又は「アン」が原告会社に独占的に使用されてはいないので、被告の営業活動が、原告会社の施設又は活動と混同を生じることはない。

八  原告西田の商標権に基づく損害賠償請求について

原告西田は、本件登録商標の使用料が商品の販売価格の三パーセントを下らないと主張するが、右主張は婦人既製服には当てはまらない。婦人既製服については、商標で商品を買う人はまれであり、商標権の価値は低い。

第四被告の主張に対する原告らの反論

一  被告は、本件登録商標の要部は、「図形」と「an」と「アン」の三者の組合わせにあり、称呼としての「あん」にはないと主張する。なるほど、商標は、文字、図形及び記号等の可視的要素である外観を全く度外視することはできないであろう。しかし、商標の保護目的が結局商品の出所混同行為の防止にある以上、商標の類否は単なる商標自体の抽象的近似性ではなく、むしろ対比される商標を同一又は類似の商品に使用した場合、取引者又は需要者の心理に商品の出所について混同が生じ得るか否かの点に求められるべきであり、その意味において商標の類否判断に当たり、取引界の実情が十分に斟酌されるべきである。ところで、取引社会が極端に拡大され、通信広告等取引の媒体が多元化された現在においては、取引範囲が限定された時代と異なり、商標はもはや単に文字、図形等外観により目に訴えて商品を区別させる機能を営むだけでなく、電話、電報又は一般口頭による注文、ラジオ放送による広告等、音によって当該商品を指示し、他の商品と区別するのに使われ、また観念によって記憶されるものであり、むしろ称呼、観念の要素が商標の識別機能に何よりも重要なウエイトを占めているということができる。本件商標権の指定商品である婦人服の取引においても例外ではない。取引者及び需要者は「あん」という称呼で商品を指示し、「an」という文字の結合で商品を記憶しているのである。本件登録商標と被告標章とは、称呼及び観念において全く共通している以上、外観に多少の相違があっても、被告標章によって本件登録商標の識別機能は阻害され、需要者及び取引者間において商品の出所の混同を生ぜしめるおそれが十分にあるといわなければならない。かくて、被告標章は本件登録商標と類似するというべきである。

二  被告は、アルファベット一文字若しくは二文字を普通に用いられる方法で表示して成る商標は商標法第三条第一項第五号の規定により登録を許されないと主張するが、本件登録商標の登録出願の前後を通じてアルファベット二文字を普通に用いられる方法で表示して成る商標が現に数多く登録されているのである。

三  被告は、看板(店頭表示板)に被告標章を表示しているのは、被告の店舗の所在を表示しているのであって、商品の広告をしているのではないと主張する。しかし、看板(店頭表示板)もまた商品表示機能を営むものであり、従ってそれ自体商品の広告たり得るものである。よって、看板(店頭表示板)に標章を付して展示する行為は明らかに商標の使用である。被告が被告標章(2)を看板(店頭表示板)に使用していることは、甲第三二号証の一ないし六から明らかであるところ、甲第三二号証の一ないし六に示されている看板(店頭表示板)には、「アンプレタポルテ」と記載されており、「プレタポルテ」が一般名称であることを併せ考えれば、右「アン」が標章として商品表示機能を営んでいることは明らかである。

四 被告は、被告標章(1)は単なる図案であり、強いて欧文字として解釈すれば、「ch」か「oh」かであり「an」の文字とは関係がないと主張する。しかし、被告標章(1)はその独特の書体からも明らかなとおり、被告のいうarmand hallensteinの標章を借用し、ただ同標章中「h」の部分の頭を切断して「n」としたものにほかならない。すなわち、被告標章(1)は、まさに「an」の文字を図案化したものである。しかも、armand hallensteinの標章は、フランスの著名なモード雑誌でありわが国にも大量に輸入されている“L'OFFICIEL”等にも掲載され、従ってその標章が「a」と「h」の組合わせであることはわが国の服飾関係者間においては周知であるという事情を斟酌すれば、被告標章(1)が「an」の組合わせであることは、少なくともわが国の服飾関係者においては容易に判明し得るところである。更に、被告標章(1)が使用されているタッグ(下げ札)に「AN CO,LTD」という「AN」を殊更大きくした文字が併記されているその使用態様からすれば、被告標章(1)が「an」の図案化であることは、一般需要家においても容易に推知し得るところである。

五  被告は、被告標章(1)は極めて特殊な態様で表わされている文字であるから、その文字に相当する称呼、観念を生じる余地はないとし、乙第九号証の三を援用する。しかし、乙第九号証の三の三に指摘されている商標はその態様の特殊性において、被告標章(1)とは同一に論ずることはできない。

六  被告は、被告標章(2)ないし(5)は商品の表示として使用しているものではなく、商品の製造者としての被告の表示の一部として通常用いられる方法に従って表示しているに過ぎないと主張する。≪証拠省略≫に示された被告標章(2)では、その標章の前に「株式会社」、後に「東京原宿」と一列に記載されているが、「アン」の文字が殊更に大きく表示されており、その結果右「アン」は商号の一部を構成するというよりはむしろそれ自体商品表示の機能を有する独立した標章たる観を呈するに至っているものである。被告標章(3)ないし(5)は、前述のとおり、婦人服のタッグ、織ネーム又は包装袋に使用されているところ、これらのタッグ、織ネーム又は包装袋には、「AN」の前に「TOKYO」、「AN」の後に「CO,LTD」と記載されてはいるが、「AN」の文字がいずれも殊更大きく表示されており、前述の「アン」と同様に、右「AN」は商号の構成部分というよりむしろ独立した標章たる観を呈し、それ自体商品の表示機能を営んでいるものというべきである。

七 被告は、婦人既製服においては、商標で商品を買う客はまれであり、商標権の価値は低いと主張するが、「Christien Dior」、「LANVIN」、「HERMES」等の商標の例をみても明らかなとおり、婦人既製服においても商標が顧客の商品選択に大きなウエイトを占めているものである。

第五証拠関係≪省略≫

理由

第一  原告西田の本件商標権に基づく被告標章の使用の差止請求について

一  原告西田が本件商標権者であること及び被告の商品である婦人服が本件商標権の指定商品「被服」に含まれるものであることは当事者間に争いがない。

二  被告標章(1)の使用の差止請求について

(一)  原告西田は、被告は被告標章(1)をその商品である婦人服のタッグ(下げ札)、織ネーム、看板(店頭表示板)、包装紙及び包装袋に付し、右タッグ若しくは織ネームを付した婦人服を販売し、引渡し、又は販売若しくは引渡のために展示していると主張し、被告は、被告標章(1)を被告の商品である婦人服のタッグ(下げ札)、織ネームに付し、又は右タッグ若しくは織ネームを付した婦人服を販売し、販売のために展示していること及び被告標章(1)を看板(店頭表示板)に表示していることを認め、その余を争い、被告標章(1)を被告の商品である婦人服の包装紙及び包装袋に付していないし、また看板(店頭表示板)に被告標章(1)を表示しているのは、これによって店舗の存在を表示しているのみであって、商品の広告をしているのではないと主張するので、まずこの点について検討する。

≪証拠省略≫によれば、被告が被告標章(1)を被告の商品である婦人服の包装袋に付していることが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。被告が被告標章(1)をその商品である婦人服の包装紙に付し、あるいは付するおそれがあることを認めるに足りる証拠はない。従って、原告西田の本件商標権に基づく被告標章の使用の差止請求中、被告が被告標章(1)をその商品である婦人服の包装紙に付することの差止を求める部分は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

次に、看板(店頭表示板)についてみるに、昭和四九年二月二四日横浜高島屋店内の被告の売場を撮影した写真であることについて争いがない甲第三二号証の一ないし六、同年一月二九日同店内の被告の売場を撮影した写真であることについて争いがない乙第四号証の一によれば、同百貨店の婦人服が展示されている被告の売場に看板(店頭表示板)が設けられ、その看板(店頭表示板)の一つには、その上部中心に被告標章(1)、二段目に左横書きの片仮名の「アン」(被告標章(2))、三段目に左横書きの片仮名の「プレタポルテ」の表示がされていること、他の看板(店頭表示板)には、上部二段目に被告標章(1)、四段目に左横書きの片仮名の「アンプレタポルテ」、その下に数列横書きの説明文が表示されていることが認められる。右写真によれば、右看板(店頭表示板)はその売場に表示されている婦人服が特定の者の製造あるいは販売に係るものであること、すなわち右婦人服の出所の同一性をも表章しているものであると認められ、被告主張のように店舗の所在を表示しているのみであるとは認められない。そうすると被告は、その商品である婦人服に関する広告に被告標章(1)を付して展示して被告標章(1)を使用しているものというべきである。

(二)  そこで、本件登録商標と被告標章(1)との類否について判断する。

1 ≪証拠省略≫によれば、本件登録商標は、別添商標公報記載のとおり、上部に山裾の長い、ゆるやかな傾斜の、左右対称の「山形」の図形が表わされ、その山形の下中央部に山形に覆われるようにローマ字「an」の印刷体が左横書きに配され、その下に山形と同じ長さの横の直線一本が配され(「an」を除いた以上の構成は、「えもん掛け」様の図形ともみられる。)、その下に各字が「an」の各字より縦横約一・五倍の大きさの白抜きの片仮名「アン」の文字が左横書きに配された構成から成り、被告標章(1)は、別紙目録(1)記載のとおり、左に「」、右に「」が配された構成から成るものである。

2 前説明の本件登録商標の構成に照らすと、本件登録商標は図形及び文字によって構成されている全体によって認識されるほか、「あん」の称呼の生ずる「an」又は「アン」若しくは両者の結合によって認識され、それら各部分が要部をなすものと認められる。

3 被告は、本件登録商標は特殊の山形と直線との間に挾まれた欧文字の「an」と直線の下の片仮名の「アン」との結合から成るものであって、その権利の中心は、その独得の形態と組合わせにあり、「あん」の称呼を生じる「an」又は「アン」はその要部ではないとの趣旨の主張をする。

登録商標と他の商標との類否判断は、他の商標を登録商標の指定商品又はこれに類似する商品について使用した場合に、商標権者の商品と他の商標使用者との商品の出所について誤認混同が生ずるおそれがあると認められるか否かにより判定すべきものであって、右の観点からするときは、登録商標が文字及び図形の結合から成るものである場合には、その全体をもって右の類否の判定に供しうることはいうまでもないが、文字及び図形を分離して観察され得る部分については、そのおのおのをもってもなお対比を行いうるものというべきである。本件登録商標は前説明のとおりの山形と直線(あるいはえもん掛けの図形)が配されてはいるけれども、前説明のとおり「an」と「アン」という、何人も容易に「あん」と発音するものと解される文字が配されているため、この両文字の部分が、本件登録商標を見る者に強く印象付けられ、本件登録商標を山形と直線(あるいはえもん掛けの図形)を含め全体的に観察しても、取引者又は需要者がこの商標から「あん」の称呼を容易に引き出すことは明らかというべきであり、従ってまた本件登録商標の要部は、「あん」の称呼を生ずる「an」又は「アン」若しくは両者の結合にもあるということができる。

被告は、この点に関し、アルファベット一文字若しくは二文字を普通に用いられる方法で表示して成る商標は、商標法第三条第一項第五号の規定により「きわめて簡単でかつありふれた標章のみからなる商標」として登録を許されないものであるところ、本件登録商標が「an」の文字のみから成るものであったとしたら、当然右条項により登録を拒否されたであろうから、本件登録商標は山形の「図形」と欧文字の「an」と特殊な形の片仮名で表示された「アン」の三者が一体となって始めて特別顕著性を生じ登録が許されたものであるというべきであり、本件登録商標の要部は、右「図形」と「an」と「アン」の三者全体でなければならず、「あん」の称呼の生ずる「an」又は「アン」にはないと主張する。ところで、≪証拠省略≫によれば、特許庁係官の商標法に関する著書に、きわめて簡単でありふれた標章の例として、アルファベットの一字又は二字から成る商標が掲げられており、また「AB」に「エービー」のふり仮名が付された商標でも簡単かつありふれた商標である旨記載されていることが認められるが、他方≪証拠省略≫によれば、普通の書体で横書きの、、、等の商標が登録されていることが認められ、簡単な構成でも出所表示機能を有しありふれたものといえない標章があり得るものと解されるところであって、「an」、「アン」又は「an」と「アン」とが結合した標章が商標として登録されないものと一概に断定できないところであるから、これが登録されないことを前提として本件登録商標の要部が「あん」の称呼を生ずる「an」又は「アン」にはないとする被告の前記主張は理由がない。

4 被告標章(1)は、前説明のとおりととから成り、はの上に「」を冠したものとみられるが、そのような形態のローマ字はないし、またはローマ字のhなのかnなのか必ずしも判然としない。しかし、「」はローマ字aの図案化と見られる余地がないわけではなく、また「h」にしてもKよりもnに近いと見られなくはないところ、≪証拠省略≫によれば、被告の商品である婦人服のタッグには被告標章(1)のほかに左横書きで「株式会社アン東京原宿」(「アン」は被告標章(2))、(「AN」は被告標章3)又は(は被告標章(4))の表示が、被告の商品である婦人服の織ネームには被告標章(1)のほかに左横書きで(「AN」は被告標章(3))又は(は被告標章(5))の表示が、被告の商品である婦人服の売場の看板(店頭表示板)には被告標章(1)のほかに左横書きの片仮名の「アン」又は「アンプレタポルテ」(「アン」は被告標章(2))の表示が、被告の商品である婦人服の包装袋には被告標章(1)のほかに左横書きで(「AN」は被告標章(3))の表示がそれぞれ付されていること、すなわち被告標章(1)は右のような態様で使用されていることが認められる。しかして被告標章(2)ないし(5)が「アン」又は「AN」を表示し、「あん」と呼称されるものであることは何人も容易にこれを理解しうるところであるから、これらの表示と併記されている被告標章(1)は取引者又は需要者には右表示と関連づけて観察され、被告標章(1)が「AN」の小文字である「an」の図案化されたものであり、「あん」と呼称され得るものであるとの感を懐かせるものというべきである。

被告は、(一)被告標章(1)は単なる図案であり、極めて特殊な態様で表わされている文字であって、強いて欧文字として解釈しても、「ch」か「oh」であって、「an」とは全く関係がない、(二)被告は、被告標章(1)を作成するに当たってarmand hallensteinの標章を参考にしたが、右標章では「h」部分が長過ぎるので、これを適当な長さに切って、しかも格好を良くしたものであり、これにより「h」から「n」に右部分を変えたのではない、(三)被告はそのタッグ(下げ札)において「AN」を大きく表示しているが、それは「AN」の呼称が被告商号の中心をなすからであって、そのことから被告標章(1)を「an」と読み取ることは不可能である、(四)ファッション、プレタポルテの業界では、消費者は主として商品を見て買うのであって、標章によって買うのではないし、また業界における卸、小売の業者は、被告標章(1)を見れば被告の商品であると判断し、本件登録商標を見れば原告西田の作品であると考えるのであって、その間に誤認混同を生じる余地はないから、両者は類似するとはいえないと主張する。証人河越陽吉、被告会社代表者稲田稔は、婦人服はその商品自体を見て購入されるのであって、標章を見て買われるものではなく、標章によって商品の誤認混同が生ずる余地はないと供述するが、右供述部分は、被告標章の使用態様等前認定の事実に照らしにわかにこれを信用することができないし、前記被告の各主張は前記認定事実に徴すればいずれもその理由がないことが明らかである。被告の主張は理由がない。

なお、≪証拠省略≫によれば、登録異議の申立についての決定において、特許庁審査官が、被告標章(1)は特定の称呼を生じない旨認定したことが認められるが、右認定は、取引の実際における被告標章(1)の使用態様を前提とするものではないから、被告標章(1)が「あん」と称呼され得るとの前判断を左右するものではないし、他に右判断を左右するに足りる証拠はない。

5 なお原告は、被告標章(1)は本件登録商標と観念においても類似すると主張する。本件登録商標には、その「山形」ないしは「えもん掛け」の図形から、山ないしはえもん掛けの観念が生ずることが考えられるが、被告標章(1)には「山」ないし「えもん掛け」の観念が生ずる余地はなく、更に本件登録商標における「an」又は「アン」の文字は、一般の取引者又は需要者にとっては、格別の意味のない文字の結合から成るものと認識されるものと解されるから、これら文字から特にある観念が生ずるとは考えられない。原告の主張は理由がない。

6 以上説明のとおり、被告標章(1)は本件登録商標とその称呼において類似し、結局本件登録商標と類似するというべきである。

(三)  そうすると、被告がその商品である婦人服に被告標章(1)を使用する行為は、本件商標権の指定商品についての登録商標に類似する商標の使用に当たり、本件商標権を侵害するものとみなされるものである。

(四)  よって、原告西田の本件商標権に基づく被告標章(1)の使用の差止請求のうち、被告が被告標章(1)をその商品である婦人服のタッグ(下げ札)、織ネーム、看板(店頭表示板)及び包装袋に付し、右タッグ若しくは織ネームを付した婦人服を販売し、引渡し、又は販売若しくは引渡のために展示する行為の差止を求める部分は理由があり(引渡し及び引渡のために展示する行為は、弁論の全趣旨からそのおそれがあるものと認められる。この点は、後記被告標章(2)ないし(5)についての判断についても同様である。)、その余の請求は理由がない。

三  被告標章(2)の使用の差止請求について

(一)  原告は、被告が被告標章(2)を看板(店頭表示板)及び婦人服のタッグに使用していると主張し、被告は、これを争い、被告は被告標章(2)を看板(店頭表示板)及び婦人服のタッグに表示し、右タッグを付した婦人服を販売し、販売のために展示してはいるが、看板(店頭表示板)に表示しているのは、これによって店舗の所在を表示しているのみであって、商品の広告をしているわけではなく、またタッグに表示しているのは商品について使用しているものではなく、商品の製造者としての被告の商号の表示の一部として通常用いられる方法に従って表示しているに過ぎないと主張する。しかしながら、前説明(理由第一、二、(一)の項)から明らかなとおり、看板(店頭表示板)に表示されている被告標章(2)は被告の商品である婦人服について商標として使用されているものである。そして、≪証拠省略≫によれば、被告標章(2)は被告の商品である婦人服のタッグ(下げ札)に、左横書きの普通の書体ではあるが、その各文字が前後の各文字よりも縦横約一・五倍の大きさで肉太に殊更目立つように表示されていることが認められ、この表示形態及びこの表示が付されているタッグが商品である婦人服と密接な関連において用いられていることを併せ考えると、被告標章(2)は取引者又は需要者に特に印象付けられ、商品である婦人服の出所表示機能を有する標章でもあると認められ、単なる商号の使用であるとはいえない。タッグに表示されている被告標章(2)は、被告の商品である婦人服について商標として使用されているものというべきである。

(二)  本件登録商標と被告標章(2)との類否について検討する。

本件登録商標中「an」又は「アン」の文字若しくは両者の結合がその要部の一つをなし、また本件登録商標に「あん」の称呼が生ずるものであることは前説明のとおりである。被告標章(2)は、別紙目録(2)記載のとおり、普通の書体の左横書きの片仮名「ア」と「ン」の構成から成るものである。被告標章(2)が外観及び称呼において本件登録商標と類似するものであることは明らかである。

被告標章(2)は、本件登録商標に類似するものというべきである。

(三)  そうすると、被告が被告標章(2)を看板(店頭表示板)及び婦人服のタッグ(下げ札)に表示する行為は、本件商標権の指定商品についての登録商標に類似する商標の使用に当たり、本件商標権を侵害するものとみなされるものである。

(四)  よって、原告西田の本件商標権に基づく被告標章(2)の使用の差止請求のうち、被告が被告標章(2)をその商品である婦人服のタッグ(下げ札)及び看板(店頭表示板)に付し、右タッグを付した婦人服を販売し、引渡し、又は販売若しくは引渡のために展示する行為の差止を求める部分は理由があり、その余は理由がない。

四  被告標章(3)ないし(5)の使用の差止請求について

(一)  原告西田は、被告標章(3)ないし(5)を婦人服のタッグ、織ネーム及び包装袋にそれぞれ使用している旨主張し、被告は、これを争い、被告標章(3)ないし(5)を被告の商品である婦人服の包装袋には使用していないし、また被告標章(3)ないし(5)を被告の商品である婦人服のタッグ、織ネームに表示し、又は右タッグ若しくは織ネームを付した婦人服を販売し、販売のために展示しているが、被告標章(3)ないし(5)を商品について使用しているものではなく、商品の製造者としての被告の商号の一部として通常用いられる方法に従って表示しているに過ぎない旨主張する。しかしながら、前説明(理由第一、二、(二)、4の項)のとおり、被告は被告標章(3)を被告の商品である婦人服の包装袋に表示しているものである。そして、≪証拠省略≫によれば、被告標章(3)は被告の商品である婦人服のタッグ(下げ札)、織ネーム及び包装袋に、左横書きのローマ字「AN」の印刷体でその各文字が前後の各文字よりも縦約一・五倍、横約一・五倍ないし三倍の大きさで肉太に、被告標章(4)は被告の商品である婦人服のタッグに、ローマ字Aの左の線を斜左下に長く延ばした一部白抜きの文字とローマ字Nの右の線の下部を右斜め下に長く延ばした一部白抜きの文字とから成りその各文字が前後の各文字よりも縦約二倍、横約四倍の大きさで肉太に、被告標章(5)は被告の商品である婦人服の織ネームに、被告標章(4)の各文字をより縦長にし、白抜きの仕方をやや変えたANの各文字から成り、その各文字が前後の各文字よりも縦約三倍、横約一・五倍の大きさで肉太にそれぞれ他の各文字から区別されて殊更目立つように表示されていることが認められ、これら表示形態及びこれらの表示が付されているタッグ、織ネーム又は包装袋が商品である婦人服と密接な関連において用いられていることを併せ考えると、被告標章(3)ないし(5)は、いずれも取引者又は需要者に特に印象付けられ、商品である婦人服の出所表示機能を有する標章でもあると認められ、単なる商号の使用であるとはいえない。被告標章(3)ないし(5)は、被告の商品である婦人服について商標として使用されているものというべきである。

(二)  本件登録商標と被告標章(3)ないし(5)との類否について検討する。

本件登録商標中「an」又は「アン」の文字若しくはその両者の結合がその要部の一つをなし、従って本件登録商標に「あん」の称呼が生ずるものであることは前説明のとおりである。被告標章(3)は別紙目録(3)記載のとおり、普通の書体の左横書きのローマ字「A」と「N」とから成るものであり、被告標章(4)は別紙目録(4)記載のとおりローマ字Aの左斜めの線を斜め左下に長く延ばした一部白抜きの文字とローマ字Nの右の線の下部を右斜め下に長く延ばした一部白抜きの文字とから成り、被告標章(5)は別紙目録(5)記載のとおり被告標章(4)の各文字をやや縦長にしたものであるから、取引者又は需要者が、いずれの標章からも、「あん」の称呼を容易に引き出すものであることは明らかである。被告標章(3)ないし(5)は、本件登録商標と称呼において類似するものというべきである。

被告標章(3)ないし(5)は、本件登録商標に類似するものといわなければならない。

(三)  そうすると、被告が被告標章(3)を被告の商品である婦人服のタッグ、織ネーム及び包装袋に、被告標章(4)をタッグに、被告標章(5)を織ネームに表示する行為はいずれも、本件商標権の指定商品についての登録商標に類似する商標の使用に該当し、本件商標権を侵害するものとみなされるものである。

(四)  よって、原告西田の本件商標権に基づく被告標章(3)ないし(5)の使用の差止請求のうち、被告が被告標章(3)をその商品である婦人服のタッグ(下げ札)、織ネーム及び包装袋に、被告標章(4)を婦人服のタッグに、被告標章(5)を婦人服の織ネームにそれぞれ付し、右タッグ若しくは織ネームに付した婦人服を譲渡し、引渡し、譲渡若しくは引渡のために展示する行為の差止を求める部分は理由があり、その余は理由がない。

五  そうすると、原告西田の本件商標権に基づく被告標章の差止請求は、被告が被告標章(1)を婦人服のタッグ(下げ札)、織ネーム、看板(店頭表示板)及び包装袋に、被告標章(2)を婦人服のタッグ及び看板に、被告標章(3)を婦人服のタッグ、織ネーム及び包装袋に、被告標章(4)を婦人服のタッグに、被告標章(5)を婦人服の織ネームにそれぞれ付し、右タッグ若しくは織ネームを付した婦人服を譲渡し、引渡し、譲渡若しくは引渡のために展示することの差止を求める限度において理由があるので、これを認容し、その余は理由がなく、棄却すべきである。

第二  原告会社の不正競争防止法第一条第一項第一号、第二号に基づく被告標章の使用の差止請求及び被告商号登記の抹消登記手続請求について

一  原告会社は、「an」又は「アン」の表示が原告会社の商品及び営業上の施設又は活動を表示するものとして、日本全国において同業者及び需要者間に広く認識されるに至っていると主張し、被告は、これを争い、原告会社は被告会社設立当時はもちろん現在も同業者間において会社の名称すら著名でなく、まして「an」又は「アン」が原告会社の商品を表示するものとして広く認識されているという事実はないと主張するので、この点について検討する。

二 ≪証拠省略≫によれば、原告会社の取引者又は需要者が提出した書面に「an」又は「アン」の表示が原告会社の商品である婦人服を表示するものとして著名であることを証明する旨原告会社の主張に添う記載がされており、また証人西田一郎及び原告兼原告会社代表者西田武男は、原告会社は昭和三九年一〇月の会社設立以来、その営業であることを示す表示として「an」又は「アン」を用い、遅くとも昭和四三年ころには同表示が原告会社の商品及び原告会社の営業であることを示す表示として広く認識されるに至ったと供述するが、後記認定に照らし、右記載内容及び各供述部分はにわかに信用することができないし、他に原告会社の主張事実を認めるに足りる証拠はない。すなわち、≪証拠省略≫を総合すると、原告会社の第一期(昭和三九年一〇月二六日から昭和四〇年七月三一日まで)から第九期(昭和四七年八月一日から昭和四八年七月三一日まで)の間の原告会社の婦人既製服、アクセサリー等全製品の売上高が別紙売上実績表金額欄記載のとおりであり、このうち九八ないし九九パーセントが婦人既製服の売上高であり、またこの間の婦人既製服の売上数量が同表売上数量欄記載のとおりであること、別紙第一ないし第四の表示が原告会社の婦人既製服の識ネームに(第一、第二の表示は昭和三九年秋ころから、第三、第四の表示は昭和四二年ころから)、別紙第五ないし第八の表示が原告会社の婦人既製服のタッグ(下げ札)に(第五の表示は昭和三九年、第六、第七の表示は昭和四四年、第八の表示は昭和四三年夏ころから)、別紙第九ないし第一一の表示が大阪大丸店の原告会社の婦人既製服の売場に表示されていること、原告会社がその商品である婦人既製服に関する広告宣伝(月刊誌、展示会、新聞広告、ダイレクトメール、車内広告等)に「an」又は「アン」を含む表示を付してきたことが認められるけれども、原告会社がした広告が「an」又は「アン」の表示を原告会社の商品又は営業を示す表示として広く認識されるに至らせる程のものであることを認めるに足りる証拠はないし、前記別紙第一ないし第一一の「an」又は「アン」の表示にしても、それが原告会社の商品あるいは営業の表示であることを窺わせるのは別紙第二だけであって、その他の表示には「an」又は「アン」が用いられてはいるものの、それが原告会社の商品あるいは営業を表示するものであるかどうか表示自体からは明らかではなく、かえって別紙第一、第四、第六、第七などは、「an」の表示が西田武男デザインに係る商品を表示するものとして用いられていることが認められるところであり、更に≪証拠省略≫を総合すると、全国の昭和四四年から昭和四七年までの各年、昭和四七年一月から三月まで、昭和四八年一月から三月までの間の婦人既製服類の生産高は別紙婦人既製服類生産高表記載のとおりであり、これに比べ前認定の原告会社の売上数量は極めて僅少であり、しかも例えば原告会社の「第二回大丸ファッションアベニュー婦人服プレタポルテコレクション」(昭和四六年夏)の招待状にしても、「an」の表示が使用されてはいるが、その下に「西田武男デザインアンサンブル」、「西田武男デザインツーピース」と記載されているに止まり、横浜高島屋店内の原告会社の売場の看板(店頭表示板)にしても、「an」の表示はあるものの、同時に「西田武男プレタポルテ」と表示されており、昭和四八年一二月一四日付夕刊読売新聞の上野松坂屋の広告の場合でも、「an」又は「アン」の表示はなく、「“ニナ・リッチ”にしようか“西田武男”にしようか」、「西田武男ブティック」として広告されており、原告会社の婦人既製服の中には、その織ネームに「an ROBE LTD. TOKYO」と「an」の表示が用いられてはいるが、その上部に大きく目立つ書体の左横書きの「Takeo」、その下部に普通の書体の左横書きの「NISHIDA」の表示がされており、いずれも「an」が原告会社の商品あるいは営業を表示するものというよりも西田武男のデザインに係る婦人服を表示するものとして用いられているところであり、元来西田武男の名前がデザイナーとして婦人服の業界に著名であり、その製品も西田武男デザインの婦人服として知られ、原告会社自体一般に広く知られているということはなく、従ってまた「an」又は「アン」が原告会社の商品である婦人服あるいは原告会社の営業を示す表示として広く認識されるまでには至っていないことが認められる。

三  そうすると、「an」又は「アン」の表示が、原告会社の商品である婦人服について、不正競争防止法第一条第一項第一号にいう「広ク認識セラルル他人ノ……商品タルコトヲ示ス表示」であるとは認められず、また同項第二号にいう「広ク認識セラルル他人ノ……営業タルコトヲ示ス表示」であるとは認められないから、原告会社の同法条に基づく被告標章の使用の差止請求及び被告商号登記の抹消登記手続請求は、その余の争点について判断するまでもなく、理由がないので、棄却すべきである。

第三  原告西田の本件商標権侵害に基づく損害賠償請求について

一  原告西田は、被告が昭和四五年八月一四日から昭和四七年八月三一日までの間に、被告標章(1)ないし(5)を使用することが本件商標権を侵害するものであることを知りながら、右標章を付した商品を合計金七億五、〇〇〇万円相当販売して被告標章(1)ないし(5)を使用した旨主張する。

ところで、被告が被告標章(1)ないし(5)を婦人服のタッグ(下げ札)、織ネーム、看板(店頭表示板)及び包装袋に付し、又は右タッグ若しくは織ネームを付した婦人服を販売して本件商標権を侵害したものであることは、前記第一の判断のとおりである。そして、本件商標権を侵害した被告が、その侵害行為について過失があったものと推定されるところ、右推定を覆すに足りる証拠はない。

原告西田は、被告の侵害行為により本件登録商標の使用に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の損害を受けたというべきところ、右通常受けるべき金銭の額は、商標の使用料相当額であり、被告の被告標章(1)ないし(5)の使用のような態様の場合の使用料は商品の販売価格の三パーセントを下らないから、被告の前述期間中の販売総額金七億五、〇〇〇万円に右使用料率〇・〇三を乗じた金二、二五〇万円が、被告の侵害行為により原告西田が被った損害であると主張する。≪証拠省略≫によれば、被告の婦人服の売上高が、昭和四五年は被告会社設立の八月一四日以降で金一億円、昭和四六年は金六億円、昭和四七年は金一二億円はあったことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。そして、≪証拠省略≫によれば、原告西田は原告会社に対し本件登録商標の使用を許諾しているところ、その使用料額は未だ確定はしていないが、販売額の二パーセントないし三パーセントであるとされていることが認められ(他に右認定を覆すに足りる証拠はない。)、この事実及び弁論の全趣旨によれば、本件登録商標の使用料額、すなわち本件登録商標の使用に対し通常受けるべき金銭の額は、商品の販売価格の少なくとも二パーセントを下らないものと認めるのが相当である。被告は、婦人既製服については、商標で商品を買う人はまれであり、商標権の価値は低いと主張するが、単にそのように主張するに止まり、右認定を覆すに足りる反証をするのでもない。被告の主張は理由がない。そうすると、原告西田の損害額は、その主張期間中、昭和四五年八月一四日から同年一二月三一日までは、被告の婦人服の売上額金一億円に使用料率〇・〇二を乗じた金二〇〇万円、昭和四六年一月一日から同年一二月三一日までは同売上額金六億円に同使用料率を乗じた金一、二〇〇万円であるが、昭和四七年一月一日から同年八月三一日までの販売額を確定するに足りる証拠がないから、その間の損害額を算定することができず、結局原告西田が侵害期間として主張する昭和四五年八月一四日から昭和四七年八月三一日までの間の被告の侵害行為によって原告西田が被った損害額は、右金二〇〇万円と金一、二〇〇万円とを加えた金一、四〇〇万円であると認定することができる。

そうすると、被告は、原告西田に対し、損害金一、四〇〇万円の支払義務がある。

二  よって、原告西田の、損害金の内金一〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四七年一〇月二七日以降支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める本件商標権侵害に基づく損害賠償請求は、全部理由があるので、これを認容すべきである。

第四  以上のとおりであるから、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条、第九二条但書を、仮執行の宣言について同法第一九六条第一項を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高林克巳 裁判官 小酒禮 清永利亮)

〈以下省略〉

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